子供によくある熱せん妄とは?高熱で発症する異常行動への対処法

「高熱せん妄」「熱性せん妄」と呼ばれることもある熱せん妄。発熱時に起こる症状のため、突然の子供の異変に驚いて戸惑う経験をしたママも少なくありません。
子供には比較的よく起こると言われていますが、いざという時に親が冷静な対応をとることが必要になります。
そのため、こちらでご紹介する熱せん妄とはどのようなものか、どのような原因で発症するのか、発症しやすい年齢、いつまで起こるか、脳炎との区別、よく見られる症状、対処法、体験談などを読んで、事前に知っておくことをおすすめします。
熱せん妄とは?

熱せん妄とは、高熱を出した際に起こる意識障害です。乳幼児期によく見られると言われていて、小児インフルエンザの合併症として有名です。
ただしインフルエンザ以外の原因でも起こることがあるため注意が必要です。
38度以上の高熱を出した日を1日目とした場合、1日目もしくは2日目に熱せん妄が発症する確率は80%で、発症する時間帯は夜の方が多いという臨床データもあります。(注1)
主な要因とインフルエンザ以外の原因
尿路感染、上気道炎、扁桃線炎などの細菌やウイルスが原因で高熱を出す病気の場合にも、発症したと報告がされています。
このような高熱による要因以外にも、年齢や体質などの内的要因、薬などの外的要因なども原因として考えられています。(注2)
発症しやすい!熱せん妄の好発年齢
平成11年に行われた小児せん妄に関する外来1511例を対象とした調査では、熱せん妄を発症しやすい好発年齢は1~5歳。繰り返すことは少なく、1回のみの出現が66%で一番多いという結果でした。
インフルエンザによる熱せん妄はタミフルが原因ではないかとも言われていますが、この調査はタミフル発売前に行われた調査です。
この時の熱せん妄の発症率は12%。国内の子供の熱性けいれんの発症率は3~8%ですので、それに比べるとかなり高い割合です。(注3)
せん妄になりやすい子
せん妄は年齢以外にも危険因子を持つ子供の方がなりやすいと言われています。ただし危険因子を持たない子も、熱せん妄を発症することがありますので注意しましょう。(注4)
- 男の子
- 低年齢
- 養育者に不安や抑うつが見られる
- 入院など家族や家から離される状況
- 騒音や睡眠リズムが崩される環境
- 従来から知的あるいは行動の問題が見られる
熱せん妄はいつまで起こるの?
子供の脳が安定しない9歳ごろまでは起こる可能性があるという小児科医もいますが、中学生に起きたという報告もあり、明確に何歳まで熱せん妄が起きるとは明言できないのが現状です。
気を付けなければいけないのは年齢が高い子供です。窓の鍵や玄関の鍵を開けられるなど複雑なことができるようになっているため、異常行動により窓から落ちるなどの危険を伴う可能性も上がります。その点も併せて注意が必要です。
熱せん妄とインフルエンザ脳症との区別
インフルエンザにかかった幼児は、発熱後に急に異常行動、意識障害、けいれんなどの症状を起こし、インフルエンザ脳症になることもあります。子供のインフルエンザ脳症は亡くなる確率が高く、後遺症も残りやすい病気です。
インフルエンザ脳症の前兆の異常言動の例(注5)
- 人の識別ができない
その場にいない人がいると言ったり、両親がわからなくなったりする - 食べ物と食べ物以外が区別できない
- 幻視・幻覚を訴える
動物やアニメキャラクターなどが見えると言う - ろれつが回らない
- 意味不明な発言をする
- 怯える
恐怖を訴えたり、態度や表情が怖がっていたりする - 急に感情の起伏が激しくなる
急に怒り出す。泣きだす。大声で歌う。
早期発見が望ましいのですが、同じような症状は熱せん妄でも現れるため、インフルエンザにかかった場合は医師でも脳症なのか熱せん妄なのか判断が難しいのが現状です。
ただし異常行動にけいれんを同時に発症する場合や長時間異常が続く場合はインフルエンザ脳症の心配もありますので、細心の注意が必要です。(注6)
近年ではインフルエンザ治療薬「タミフル」による異常行動も報告されています。ただしインフルエンザによる異常行動なのか、それともタミフルの影響を受けての異常行動なのか、明確な結論はつけられていません。
子供の熱せん妄によく見られる症状

熱せん妄によりママやパパが想像しえない行動をとる子供もいます。家を裸足で飛び出したというエピソードも聞きますので、子供が発熱した際はいつも以上にしっかりと戸締りをし、できるだけ目を離さずに、子供が簡単に外出できないようにしましょう。
幻覚、幻聴を見る
「怖い人が追いかけてくる」「知らない人がこっちを見ている」「叫び声が聞こえる」など、様々な物が見えたり聞こえたりするため、怯えて恐怖を訴えてきます。
子供の怯える様子を目の当たりにしたママからは、「どうしていいのか分からず不安を感じた」との声も聞かれました。熱せん妄の場合は長く続きませんので、落ち着いてママが対応してあげましょう。
奇声をあげる
いきなり大音量の声で奇声を発し、わけの分からない言葉で話し出す子供を「不気味に感じた」との感想も聞かれます。
そんな子供の行動も、熱せん妄から来たものだと原因が分かっていれば少し安心できます。まずはママが深呼吸し、子供のそばで経過を見守りましょう。
急な異常行動をとる

いきなり立ち上がる、走り出す、ベッドの柵を乗り越えて落ちる、前回り、外に飛び出すなど異常行動の事例も報告されています。
発熱時は大人が常に横で見守ることはもちろんですが、急な異常行動に対応するために窓、玄関などの施錠はしっかり行いましょう。2歳までの小さいお子さんがいる場合は、対策の一つとしてベビーゲートも有効的です。
笑い出す
いきなり何もない壁を見てゲラゲラ笑いだしたとの報告もありますが、笑い出す場合は他の行動よりも子供から悲壮感や辛さを感じることが少ないです。
驚きはするものの落ち着いて対応できたとの声がある一方、楽しそうだから安心していたら40度の高熱で驚いたとの声もありました。
ただし泣き出したり、怒り出したりすることもありますので、いずれにせよ高熱時に突然感情の起伏の激しさが現れたら、熱せん妄の疑いがありますので注意しましょう。
子供が熱せん妄を発症した際の対処法

高熱のときは子供のそばで看病されていることでしょう。熱せん妄の際もそばに付き添いきちんと対処し、少しでも早く子供の気持ちを落ち着かせてあげましょう。
1子供を抱きしめる
何よりもまずは、抱きしめてあげてください。子供が熱せん妄になっている際は、怖いものを見たり聞いたりしておびえており、震えていることもあります。
そんな時、ママの存在は大きな支えになりますので、しっかり抱きしめましょう。
2現状を繰り返し伝える
幻聴、幻覚などを見て現在どこにいるか分からなくなっている場合もあります。子供に「今は家だよ。ママとパパとあなたしかいないよ。怖い人はいないよ。大丈夫。」と何度も現状を伝えてあげましょう。
症状がひどく、現実との境界が分からず抱きしめられることも嫌がり、逃走するケースなどに繋がりかねませんので、しっかり手や体を擦りながら伝え、子供を落ち着かせてあげましょう。
3子供が安心する物を渡す
ぬいぐるみや大切な玩具など子供が落ち着く物がある場合は、渡してあげるのも落ち着く方法の一つです。「〇〇もママもついているから大丈夫だよ!」と伝えてあげましょう。
最初は錯乱して認識ができませんが、少しずつ冷静になり、安心感を得られます。
4高熱の対処をする

熱せん妄の現象が起こるときは高熱が伴います。そのためこまめな水分補給や氷枕などで高熱の対策をしてあげましょう。
発熱は敵と戦っているサイン!解熱剤を使用して無理に熱を下げる必要はありません。
ただし子供がぐったりしている場合や水分や睡眠が取れていない場合は、体力が極端に低下したり、脱水症状を起こしかけていたりする可能性も。
そんな時は病院から処方された解熱剤を使い、一度睡眠や水分が摂れる状態にするのも一つの対処方法です。
解熱剤はインフルエンザ脳症を引き起こす!?

市販の解熱剤を使うことで、インフルエンザ脳症になることがあります。急な高熱に対処しようと市販の解熱剤を個人の判断で飲ませるのは大変危険ですので止めましょう。
ただし小児科で処方される解熱剤は、安全に使用できることが実証されているものですので、必要以上に不安になる必要はありません。高熱による脱水症状などの方が心配ですので、医師の指示に従い、子供の症状を見て判断をしてあげると良いでしょう。(注7)
5日ごろの生活を見直す
子供のせん妄の治療には、安心感を与えることや昼夜のリズムを整えることが大切だと考えられています。日頃から幼い子供に強い不安を与えたり、夜更かしをさせたりしている場合は、生活を見直すことも大切です。
子供を怒りすぎたと感じる時は、抱きしめるなどのフォローも忘れずに行うといいでしょう。
またママやパパの精神状態が安定しないことも、子供のせん妄の危険因子となります。
日頃から不安が強く、抑うつ状態に陥りやすい場合は、親のメンタルケアを疎かにしないように心掛けましょう。(注4)
子供の熱せん妄の体験談
子供の熱せん妄による幻聴・幻覚・異常行動に戸惑った経験をしたママは少なくありません。初めて体験したママも何度か体験したママも、やはり不安や怖さはあることが多いです。
初めての熱せん妄に不安

熱せん妄に息子がなったのは5歳の時でした。いきなり、「変な人がこっちに来る。助けて!怖い怖いよ。」と叫び布団の中にもぐりガタガタと怯えだしました。
初めてのことで何が起きたのか理解できず、布団から引きずり出して抱きしめたくても、「ここから出ると怖い人が来るから出られない」と怯えるばかり。結局布団の中で私の足に絡まり震え続けました。その後少し落ち着いたので、氷枕で頭を冷やし解熱剤で対処してその日は寝ました。
次の日、病院で診療を受けたのですが、何事もなかったかのように前日の出来事を忘れていました。病院の先生も「急な発熱時のせん妄は、脳が発達しきれていない年齢だとよくあることだから。」と言われました。
本当に不安だったので、安心はしましたが、今後もこのような症状が出るかもしれないと思うと、心配で仕方ありません。
異常行動怖い
息子が発熱した際の出来事です。ムクッと起き上がり、「行かなきゃ」と一言。そして階段を降り、庭に通じる窓を開けて外に出ようとしましました。
以前も熱せん妄の症状が出て、幻聴、幻覚は見ていたのですが、外に飛び出そうとしたのは初めてだったので、急いで捕まえて、「行かなくていいよ、何もないよ。大丈夫だよ。」を繰り返し伝えましたが、それでも外に出ようとしたので、お尻をパチンと叩きました。その時に、我に返ったのか一瞬止まり数秒後に落ち着きました。
次の日、「昨日のこと覚えている?」と聞いても、「よくわからないけど、ママに叩かれたよね。」との返事が。子供の予測不能な行動に本当に怖かったです。
熱せん妄は夜だけじゃない
娘は、現在小学3年生です。小さい頃から熱が出ると熱せん妄の症状が出て、怖いものに襲われる幻覚が見えます。私自身にも息子(娘の兄)にもそのようなことが無かったので、初めて娘が怯えているのを見たときは、本当に不安でした。
高熱も伴うので、何回もこのような経験をした今でも、私自身慣れることはありません。しかも娘の場合、朝晩関係なく幻覚を見るので発熱時は離れることができません。
医師の診断も受けているので幻覚を見る事自体は問題がないのは知っていますが、看病する私がいつも不安になるので、早く成長して症状が落ち着くと良いなと願わずにはいられません。
参考文献
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